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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)6465号 判決 1988年2月23日

原告

山中義秀

右訴訟代理人弁護士

多田武

向井惣太郎

鈴木雅芳

被告

西野明

被告

ヒノデ株式会社

右代表者代表取締役

長谷川雅実

右両名訴訟代理人弁護士

小篠映子

主文

一  被告らは原告に対し、各自金七六万八五〇〇円及び内金六九万八五〇〇円に対する昭和六〇年一一月四日から、内金七万円に対する昭和六一年六月四日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その一を被告ら、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自金三八九万三〇〇〇円及び内金三五一万八〇〇〇円に対する昭和六〇年一一月四日から、内金三七万五〇〇〇円に対する昭和六一年六月四日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告ヒノデ株式会社(以下「被告会社」という。)は一般乗用旅客自動車運送事業等を目的とする会社であり、被告西野明(以下「被告西野」という。)は被告会社にタクシー運転手として雇用されている者である。

2  紛失事故

(一) 原告は、昭和六〇年一一月三日午後六時五〇分ころ、東京都江戸川区本一色町菅原橋交差点付近において、被告会社のタクシー(以下「本件車両」という。)に乗務中の被告西野との間で、被告会社が、本件車両により、同所から原告肩書住所地まで、原告家族を運送する旨の契約を締結し、本件車両は、午後七時二五分ころ、右契約に基づき、原告肩書住所地に到着した。

(二) 右運送に際し、原告は被告西野に対し、原告の手荷物を本件車両の後部トランク(以下「本件トランク」という。)に積んで運送することを求めたところ、同被告はこれを承諾して本件トランクの蓋を開けたので、原告は、本件トランクに現金三四〇万円、医学書五冊(時価金二万五〇〇〇円)、ゴルフバック一個(時価金二万五〇〇〇円)及びゴルフクラブ一六本(時価金六万八〇〇〇円)を積み込んだ。

(三) 原告は、右積込品の返還請求を失念したまま、下車した。

(四) 原告は、翌四日午前一時三〇分ころ、被告会社江戸川営業所において、本件トランクを確認したが、右積込品は紛失していた(以下「本件紛失事故」という。)

3  責任原因

(一) 被告西野の責任

(1) 被告西野は、昭和六〇年一一月三日午後七時三〇分ころから翌四日午前一時三〇分ころまでの間に、千葉県内または東京都内において、原告から運送の委託を受けて預り保管中の右積込品をほしいままに隠匿横領した。

(2) 仮に(1)が認められないとしても、被告西野は、原告から運送の委託を受けた右積込品の紛失防止をなすべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と運送業務に従事した過失により、本件紛失事故を発生させた。

(3) よつて、被告西野は、民法七〇九条に基づき、原告に対し、原告が本件紛失事故により、被つた損害を賠償する責任がある。

(二) 被告会社の責任

被告西野の右不法行為は、被告会社の被用者としてその業務の執行につきなされたものであるから、被告会社は、民法七一五条一項に基づき、原告に対し、原告が本件紛失事故により被つた損害を賠償する責任がある。

4  損害

(一) 原告は、本件紛失事故により、右積込品(合計金三五一万八〇〇〇円)を喪失し、同額の損害を被つた。

(二) 原告は、昭和六一年四月二一日、本件訴訟を原告代理人多田武弁護士らに委任し、同弁護士に対し、着手金として金三七万五〇〇〇円を支払つた。

右弁護士費用の出捐は、本件紛失事故と相当因果関係のある損害である。

5  よつて、原告は被告らに対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、各自右損害合計金三八九万三〇〇〇円及び内金三五一万八〇〇〇円(4(一)の損害)に対する不法行為日以後である昭和六〇年一一月四日から、内金三七万五〇〇〇円(4(二)の損害)に対する不法行為日以後である昭和六一年六月四日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(一)の事実は認める。(二)のうち、積込品は不知、その余の事実は認める。(三)、(四)の事実は認める。

3  同3(一)、(二)は争う。

4  同4(一)、(二)は争う。

三  抗弁

仮に、被告らに責任があるとしても、本件紛失事故については、原告にも次のとおりの重大な過失があつた。

1  原告は被告西野に対し、現金三四〇万円を本件トランクに積み込んだ旨明告しなかつた。

2  請求原因2(三)と同旨。

四  抗弁に対する認否

争う。但し、1、2の事実は認める。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二本件紛失事故について

1  請求原因2(一)の事実は当事者間に争いがない。

2  本件運送に際し、原告が被告西野に対し、原告の手荷物を本件トランクに積んで運送することを求めたところ、同被告はこれを承諾して本件トランクの蓋を開けたことは、当事者間に争いがない。

<証拠>を総合すれば次の事実が認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果(一部)は前掲各証拠に照らし容易に採用し難いところ、その他右認定を覆すに足る証拠はない。

原告は、本件トランクに現金三四〇万円、医学書五冊(時価金一万七五〇〇円)、ゴルフバック一個(時価金二万五〇〇〇円)及びゴルフクラブ一四本(時価金五万円)を積み込んだこと。

3  請求原因2(三)、(四)の事実は当事者間に争いがない。

三責任原因について

1  被告西野の責任

(一) 原告は請求原因3(一)(1)の事実を主張するけれども、前記二2、3説示の事実をもつて右主張事実を推認することは、後記認定事実に照らし容易にできないところ、その他の右主張事実を認めるに足る証拠はない。

原告、被告西野各本人尋問の結果及び同被告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第五号証によれば、次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(1) 原告家族を運送した後である昭和六〇年一一月三日午後七時二五分ころから翌四日午前一時三〇分ころまでの間に、本件トランクを利用した乗客が二組(六人)あつたこと。

(2) 愛宕警察署は、同年一一月一二日、原告主張事実の容疑で、被告西野宅の家宅捜索及び同被告の取調べを行つたが、確証を得ることができなかつたこと。

(二)  タクシー運転手である被告西野は、目的地に到着したときは、旅客(原告)に対し、トランクを開けて積込品の引渡をし、その紛失防止をなすべき注意義務があるものと解されるところ、同被告本人尋問の結果によれば、同被告は右注意義務を怠り、原告が本件トランクに手荷物を積み込んだことを失念した過失により本件紛失事故を発生させたものであるから、同被告は、民法七〇九条に基づき、原告が本件紛失事故により被つた損害を賠償する責任がある。

2  被告会社の責任

被告西野の右認定の不法行為は、被告会社の被用者としてその業務の執行につきなされたものであることは明らかであるから、被告会社が民法七一五条一項により、被告西野の使用者として、原告が本件紛失事故により被つた損害を賠償する責任を負担すべきは見易い道理である。

四損害について

1 前記二2認定のとおり、原告がその手荷物を喪失した損害額は金三四九万二五〇〇円である。

2  過失相殺

次の事実は当事者間に争いがない。

(一)  原告が被告西野に対し、現金三四〇万円を本件トランクに積み込んだ旨明告しなかつたこと。

(二)  原告は、本件トランク内の積込品の返還請求を失念したまま下車したこと。

弁論の全趣旨によれば、右争いのない事実が、現金を本件トランクに積み込むという異常性と相俟つて、本件紛失事故の発生に大きく寄与していることが認められる。

原告の右過失の割合は、被告西野の過失の程度に比してはるかに大であると認められ、その過失割合は八〇パーセントをもつて相当とする。

したがつて、1の損害額につき八〇パーセントの過失相殺をすれば、その結果は金六九万八五〇〇円となる。

3  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和六一年四月二一日、本件訴訟を原告代理人多田武弁護士らに委任し、同弁護士に対し、着手金として金三七万五〇〇〇円を支払つたことが認められる。

本件事案の内容、認定額等諸般の事情に鑑み、本件紛失事故による損害として原告が被告らに対し賠償を求めうべき弁護士費用相当額は、金七万円をもつて相当とする。

五以上によれば、原告の本訴請求は、損害金七六万八五〇〇円及び内金六九万八五〇〇円(弁護士費用を除いたもの)に対する不法行為日以後である昭和六〇年一一月四日から、内金七万円(弁護士費用)に対する不法行為日以後である昭和六一年六月四日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官渡邉了造)

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